
マータラのファイバー工場の続きについて書く前に、やっと本日、発注しておいたシルクのハンドペイントブラウスが仕上がって来ました。制作はコロンボ在住の家族全員芸術家というお宅で、何代もの間アートに携わってこられた人々です。重厚な木の作りのお宅で、バワ風の建築がこの家の人々に実にぴったり。家の中には大きなポインターがいてとっても人懐こく、撫でると嬉しがってかわいかったです。
オーナーであり、家長のローハンさんはインドの映画監督のサタジット・レイに似た紳士で東アジアのアートにも大変詳しい方でした。
ブラウスの出来はこちらのイメージを超えて素敵でした。インドから取り寄せたシルクを染めてその上からハンドペイントした贅沢なものです。すべてのペイント部分は1点ものとして描かれています。
日本は今冬なので、販売はあまり現実的ではありませんが今回は早めに少数注文して出来上がりを見るつもりでした。個性を主張したいミセス向けにとの企画なので、夏からの本格的な開始に向けて様子を見ていくつもりです。
しかしここは完全家内制手工業なのでどう頑張っても大量仕上げが出来ません。40着程度お願いするとどのくらいの納期ですか?と伺って、うーん3か月ですねと言われた時には 仕方がないんだな、こういうものなんだなと自分で納得する以外ありませんでした。昔スリランカの三井商事が大量発注をしたそうですが、到底無理な数だったので話が流れたそうです。
さて話を前々回の続きに戻して、マータラの工場見学ののち、社長と私は会社の創業者のHiranさんのご自宅に招待されました。会社から車でわずか5分ほどの海の見える高台に、まるでグリム童話の中に出てくるようなチャーミングなレンガ造りの家。門も家に続く道の脇のオブジェも全部ファイバー製という、自分の会社の製品満載のご自宅です。Hiranさんの趣味で統一された家は、彼の財力からすると意外に大きくなく、落ち着いた佇まいです。

社長のHiranさん。うちの社長と同じく愛煙家。。
「この人マニアックだねえ」と、こそっと社長が洩らしましたが日本の灯篭までもがファイバーで作られて置かれていたのでびっくりです。「禅ですよ」とHiranさん。
様々なものがファイバー製なので、庭の草花や木の家具まで全部ファイバーに見えてきて私は思わずディズニーランドのアトラクションを連想してしまいました。

屋外に置く、こんな製品も作っている
Hiranさんと軽く仕事の話をしたあと、家のすぐ隣のホテルに皆で出かけ食事を御馳走になり、様々なお話を伺うことが出来ました。
Hiranさんはお父様が医師で、貿易にも成功されシナモンオイルを輸出していたとのこと。Hiranさんはロンドンの大学で学び、博士号を取って英国の文化や東洋の文化をその時期吸収されたようです。彼に最初にお会いしたときオーナーとは知らず、教授か何かそんな職業を連想してビジネスマンには見えなかったのですが何か合点がいくような感じです。
ヤスミンで協力をお願いしてる取引業者のオーナーの多くが、たたき上げで一代でのし上がったという人でなく、先代の方が既に教養の下地と資産を持っていた という人が多いようです。皆さんあまりがつがつしておらず、自分の美的感覚にかなったものを作りながら良い意味でマイペースに仕事をされていて 人となりにも余裕が感じられるのはそんな背景があるからでしょうか。
もっとがつがつ頑張って(急いで)ほしいと思うことも無くはないのですが・・・
海を眺めながらの食事の流れで、スリランカを襲った津波の話になりました。Hiranさんは2004年12月26日のその時、自宅で紅茶を飲んでいたそうです。
電話が鳴り、会社の工場責任者のFranciscoさんが「川から水がいきなり溢れてきて会社が大変です!」と知らせてきたそうです。Hiranさんの家は高台にあったため津波には全く気付かなかったとのことですが 河口付近にあった会社では多数の犠牲者が出て、人的被害も経済的被害も甚大で立ち直るのにずいぶん時間がかかったとHiranさんは話していました。
マータラ海沿いの民家や建物のほとんどが壊滅してしまい、今も放置されてるところが多くあります。ホテルのレストランから見える海側の丘の、コンクリートの骨組だけの建物があって Hiranさんが「あれはホテルになる予定だったんだが、津波のあとで2人のうちの出資者の片方が計画を降りてしまったんでずっとあのままになっている。売りに出されてるらしいね」と言うので、うちの社長が冗談ぽく「買うか」と笑いました。彼はずいぶんとマータラが気に入ったらしく「俺はいつかここに家を買うぞ」と決めたそうで。海大好きの彼は、ビールを飲みながら海辺でふんぞり返る生活を夢見ていますが、まあ、コロンボに比べたら地価は10分の1くらいでしょうし、スローライフが実現しそうです。

マータラのホテルのレストランからの眺め。ヤシの木の向こうに青い海
今回の仕事の目的もあらかた終わり、このまま地獄の長距離バスに乗ってコロンボに帰るのが嫌だった私は、このホテルの部屋を見てみようとさりげなく持ちかけてみました。
本館から離れた、コテージ風に分かれている客室は3500ルピーから4000ルピーとお得で日本人も良く来るとのこと。海も見渡せるところにあるし、レストランの食事も内容と料金のバランスは大満足といったホテルなので泊る気満々だったのですが、Hiranさんがうちに泊まりなさいと言って下さったり、社長が明日の朝早くコロンボに戻らないと仕事あるよと言うので悩んだ挙句、帰ることにしました。結局、翌朝4時起きで始発のバスに乗らなければならないということに、泊まりたい気持ちが萎えてしまったんですが。
「今度来たら是非うちに泊まりなさいね」とバス乗り場まで見送ってくださった Hiranさん。海からの風の気持ちいい のんびりしたマータラから、座席の狭い長距離バスで4時間でコロンボへというのはさながら天国と地獄ですが、大変実り多いマータラへの旅でした。
